家族に初めて認知症の老人が出た場合の典型的な誤解

ご家族と話をしても話をしても,内容がかみ合わない.

100歳近いおばあさんが,この4カ月で急激に本格的な認知症になった場合.

そのようになる2か月前までは留守番もできて,自分のことは自分でできていた.

そこまではすばらしい.

目の前のおばあさんは,典型的な認知症

これこそが認知症という症状を前にしても,面倒をみてきた娘さんは

いろいろと一生懸命に訴えられる.

20分ぐらい話をしていて,平行線の内容,家族の希望などがようやく解った.

面倒をみてきた娘さん(といっても70歳台ですでに孫もいる.患者さんにはひ孫になる)の解釈

これは,認知症になった家族の典型的な反応と誤解がある.

間違っている解釈
1)多くの病気になった時と同じように,急になったのだから,治療したら急に良くなるのでは
  ないかと思っている.

  本当は「認知症は,急に見た目の症状がでるが,いったん出てしまえば,ましてや
      100歳近い老人が完全に認知症になったら,改善する可能性は,ほぼない」
  
  病気なのかどうかは不明.パーキンソン病などのような病気かどうかは今のところ
  不明.状態というべきであろう.20代で症状がでれば,病気であろう.
  アルツハイマーのオリジナルのように52歳ででて,2年後には廃人になれば,
  一つの疾患単位であろう.しかし,90歳台後半で症状がでたらどうか????

2)ひ孫が来たら「お小遣いをあげないと」といったので「実はわかっている」
  
  認知症になれば,何もかも完全に解らなくなるのではない.
  口癖などは,残るもの.それが認知症である.

  以前も,「半分は正しいことを言っているので,認知症ではない」と
  主張していた92歳の元校長先生の娘さんがいた.

  認知症の基準は長谷川式でも30点満点の半分,すなわち15点以下ではない.
  21点である.
  ようは,ある程度は機能が残っているが正常域より低い状態が認知症である.

   多くの一般人,家族が考えている
  「認知症になれば,なにもかも完全に解らなくなるはずなので,
   うちの親は違うはず」という,淡い期待,願望がある.
  「真実をみていない.見たくない」ことからきている.

  驚いたことで,ある意味当然のことではあるが,
3)家族は,「それだけ,今までできたことができなくなり,忘れてしまい
  さぞ,患者は苦しく,つらい日々を送っている」と思いこんでいることが
  自分は,ようやくわかった.
  
  認知症の患者のストレス度などを調べたデータがある.
  認知症の人は,自分がものを忘れて,こまったりするのは初期の正常との境界時期のみ.
  時間がわからなくなったり,相手の名前がでなくなったりする時期.
 
  それをすぎて,長谷川式もMMSもテスト自体が,できなくなった時期には,
  「忘れていること自体を忘れている」ので,実は「まったく困っていない」ことになる.
  したがって,彼らは満足度という点では100点とは言わないが,苦しみの時期は
  すぎてしまっており,悩むということがない時期である.
  
  それを,まわりが「わからないと困る」と繰り返すと
  「何をいっているのか?」と本人が怒りだすという結果を生み出す.

4)4ヶ月間で急になったから,治るまで入院させてほしい.
  
  そのような状態になって,2か月入院すれば,患者は2カ月年をとることになる.
  どんどん,治らない状態になる.
  アルツハイマーの薬もようやく,いくつか追加されたが,
  進行を止めるのであって,「かしこく」なる薬ではない.

5)夜中に寝てもらわないと,こちらが倒れる.この人はまったく寝ない.
 
  多くの他の不眠,あるいはまったく寝ていないという患者をみてきた.
  
  昼間に,数瞬,あるいは,何分間も皆,寝ては起きてを繰り返している.
  そして,夜はまったく寝ていないと家族が言う患者も
  夜中にみてみると,ごく短時間は寝ている.そして起きている.
  要は,概日リズム,サーカディアンリズムが,無くなっている.
  新生児や乳児のような,リズムが無い状態である.
  
  患者さんのほうは,実はまったく「睡眠不足にはなっていない」
  面倒みるほうが,患者がゴソゴソするときに起こされるので,
  患者はまったく寝ていないと錯覚する.
  
  ある患者の家族は「9日間もまったく寝ていない」と訴えていた.
  あり得ないし,その患者さんは,実際,起きたり,寝たりを繰り返して良く寝ていた.

まとめ:
 正常な人が正常な考えのもとで,認知症になったらこんなに困るだろう
 と思いこんでいるので,上のような質問,問答が延々と繰り返される.

 家族の苦悩,疲労を取ることが先決であろう.
   

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