自分も考える.
日本も世界も,人類が経験したことのない高齢社会になった.
しかし,定年などは,まだ80歳などにはなっていない.
仕事は,ある年齢がすぎたらできないものは沢山ある.
医師達も,年齢があがって,高齢化の病院は地方に行けば沢山ある.
どうしたものか,今の高齢化医師,初代と呼ばれる70歳代半ばの医師が救急の最前線にいる地域もある.田舎に行けば沢山ある.
院長,理事長がどちらも70歳代後半の病院も沢山ある.
彼らの気持ちは若いのは認めるものの,後に続くヒトがいないのが大変.
急患を診るわけでも無し,手術をするわけでも無し.
メジャーリーグのイチロー選手も44歳になって,27歳で米国に渡ったときの様な実績は出せていない.
総論はおいておいて,自分はどうするというお話.
ということで,自分なりに,メスを置いた後の状況を10年まえから
考えていた.
一応,自分は脳外科なので,脳外科関係に具体的に話をすると,
1)手術をどうするか
1-1)一切やめる.
手術は時代の流れで,安全,安心なものに変わっていく.
器械の発達についていくか,もう辞めるか.
現在の病院に2016年から来て,前任者で引退する6〇歳の医師に
話を聞くと,「ナビゲーター」は使ったことがないとのこと.
地域振興費で「ステルス7」がオペ室に入っていても,この1年間以上は誰も使っていなかったらしい.
自分の印象としては,「侍の時代としての脳外科医の時代は終わった」感じ.
自分の腕を信じて,修練して,数をこなすことで腕を上げた時代は終了.
髷(まげ)を結った侍の時代が終了した感じ.
ナビ,術中ICGでの確認,あるいは手術中のCT,MRI,電気的なモニターなど「確認しながらの手術」に変わっているので,一世代前の脳外科医は去って行くことがわかった.「自分の時代は終わった」のを実感しているよう.
それでも,その流れに,ついて行く外科医も多いと思う.
しかし,脳外科の手術は時間が長いものがある.
視力の問題,指の動きの問題などで,「潮時」は必ずくる.
桑田佳祐の歌の歌詞に「満員電車を,降りる潮時,やってきたんだな」というのがあったが,そんな感じ.
1-2)より非侵襲な,手術を選んで地域医療に貢献する
高齢の脳外科医師にもできて,知識も技術も活かせる手術がいくつかある.
安全・安心な長時間を要する大手術はアカデミックな大病院にまかせること.
慢性硬膜下血腫などは若い医師の入門的なものがあるが,中堅以上になるとそのような手術をやっているヒマ,時間が惜しくなる.
慢性硬膜下血腫は局麻で30分もかからず,感謝される度合いも大きい.
さらには,局麻でできる神経内視鏡の血腫吸引術など,高齢者向けの短時間の手術がある.それらをこなす.
実は自分の10年前の戦略は,それであった.
神経内視鏡の時代がくると感じて,2007年には技術講習をうけた.
その後,2008年に脳外科専門病院に帰った.
すでに,内視鏡の技術認定医が1名いたが,あまりとういかほとんど神経内視鏡を使ったオペをしない.
自分は,救急の専門医もあったので,脳外科救急のほうを担当したので,
その後,内視鏡は一切触る機会も与えられなかった.
しかし,今の病院に来て,「高齢者がより多い.皮質下出血も多い」状況をみて,これはやはり局麻で表面だけでも取ってあげる内視鏡手術が必要と再確認.
自分が2007年に「これからは内視鏡」と感じたのは,92歳の皮質下出血の患者がヘリコプターで運ばれてきた時のこと.
「なにもすることが無い」では済まされないが,全麻も大変そうと思った.その時の直感が,「局麻で内視鏡で半分取ってあげればADLが戻る」であった.急いでその年に内視鏡の講習会に行った.
その当時は,その救命救急センターにはまだ神経内視鏡は入っていなかった.しかし今は技術認定医がいて内視鏡も揃っている.その当時の若手医師たちも皆,専門医も取って,バリバリの医師として活動している.
2008年から2016年は専門病院で自分もフェンスポストを脳にさしてナビを使いながらオペをしたりした.
自分が2016年秋から,今の県北の病院にきて驚いたのは,神経内視鏡があること.それ以外にもナビゲーター(ステルスセブン),三鷹の手術用顕微鏡などが揃っている.
どうして,こんな田舎に,これほどの手術機器がそろっているのか,目を疑った.話を聞くと,どうも「地域振興費?」で購入されたものらしい.
早速,以前に入手していたDVDを再びみたり,雑誌を見たりしてお勉強.
見よう見まねで脳出血の患者さんを4名ほど内視鏡でオペさせてもらった.どうも自己流では納得できない部分が多い.オペ室の職員,他の脳外科医も,正統な?方法を見たこともないような.
そんなこんなで,11月12日にもう一度初心にもどって,「講習会」に出席してきた.自分が一番の高齢医師であろうが,こちらは必要に迫られている.3時間,必死のパッチでお勉強と訓練をした.
学会の参加費,出張費など合わせて9万円はかかった.
新しい時代を迎えるのにふさわしい印象であった.
後,3-5年ぐらいはこれでやろう.
年を取ったら,「慢性硬膜下血腫」と「内視鏡での血腫除去」がメインの手術になるであろう.おそらく必然という感じ.
2)脳外科の知識が活かせる分野を探す.
2-1)脳ドックに力を入れる.
そこで,メスを置く時が来るとして,次はどうするか?
一つは「脳ドック学会」のキャッチコピーの
「メスを置いたら脳ドック」がある.
脳ドックも歴史ができて,初期の頃は「MRIだけが脳動脈瘤を造影剤を使わず描出できる」という触れ込みで,多くの受診者がいた.
「若い人から50歳代まで」がメインの受診者層であった.
それが今では,「認知症が心配」な70歳代などの受診が増えた.
医師のほうも,初代の脳外科教授から今は全国的に3代目の孫の世代が,そろそろどうするかと言う年代になってきている.
要は,検診のほうへの異動である.
特に日本でのデータで,未破裂脳動脈瘤の中には,一生破裂しない
「非破裂」脳動脈瘤があるという事実を発表しだした.
脳動脈瘤が破裂する前に他の病気でなくなれば,それは「非破裂」であったとなるであろう.
認知症予防を勉強しながら,オペをしないと行けない疾患を探す.
これは新しい高齢化脳外科医師の良い,転向先と考えている.
自分の今いる県では,3個の病院が「脳ドック学会認定」の脳ドックをしているが,今年の10月に「施設認定」の申請をした.
自分が一つ前の専門病院にいたとき,他の脳外科医はやっていなかったが,
自分だけが金曜日に「脳ドック」を午前,午後で6名ほど見ていた.
我ながら,救急の代表もしておいて金曜日は一日脳ドックをするという仕事の与えられかたは,今も不均衡というか「やられすぎ」感がある.
実は,自分は調べると1997年から脳ドック学会にはいっていた.
それは,3個前,4個前の病院でそれぞれ,脳ドックを立ち上げたため,
自分が学会に入っていないと困ると思ったので,はいっていた.
脳ドックは1995年に4個前の病院で立ち上げた.3個前の病院は1999年に立ち上げたと記憶している.昨年10月からの,自分の今の勤め先の県北地方都市病院でも,細々と脳ドックをやっていた.
人間ドックは県でも最初に認可を受けたらしいので,そちらの方は徹底していたので,脳ドックも,学会認定にしてもらうように申請してみた次第.
2-2)脳外科外来のみに力を入れる.
オペは若い人に任す.自分は外来に専念する.
これは,脳ドックをしない日の脳外科医師としては,良い働き方.
なんと言っても,脳外科医師は「MRI」をオーダーする.
最近の外来では,「頭部打撲」「認知症疑い」でMRIの希望が多い.
それらで,おそらく自分の給料分は働ける.
自分でも,毎日毎日,外来日は予約以外に数名のMRIをオーダーして診察している.これは病院経営のほうからみても,患者さんからしても,感謝される.今は,まだオペもして当直もオンコールもしているが,最後はこうなると考えている.
3)時代にあわす.
3-1)認知症をみる.一応,脳の病気扱いなので.
高齢化社会での大きな病気は「認知症」であろう.
自分も昨年10月に「認知症学会」に入った.
今は,自分が脳外科医であると自己紹介したら,
相手が一般人の場合,「認知症の〇〇について」と相談を受ける時代.
今は,脳外科よりも神経内科が花形の気がしている.
しかし脳外科医師が認知症の薬を処方するのも日常茶飯事になった.
3-2)高齢者のてんかんをみる.
高齢者のてんかんが増えている.ほとんどが部分発作.
これは車やコンピューターを長年つかっていると,なんとなく調子が悪い部分があるというのと似ている.
また,てんかんの薬は,この10年で,漸く新製品というか新薬が沢山出だして勉強のし甲斐がある分野.
今後,薬の調節などで家族,本人から感謝される大きな分野になると思う.
3-3)頭痛患者をみる.
頭痛は頭の病気のなかでは,歴史も実績もデータもある分野.
自分も,頭痛学会指導医を取った.
おかげで,外来患者は増える一方.
これは,高齢者も多いが,中高生の片頭痛も多いので,感謝されることも多い.
そんなこんなで,自分は「長時間の大手術」は若い医師達にまかせて,
「短時間で低侵襲だが,患者からは感謝される手術」に特化して手術をしている.空いた時間は,外来で上記の患者をみている.脳ドックも以前の病院のエリアよりも人工が1/7なので,数自体がすくなく,問題なくすましている.そもそも論で,一つ前の病院はMRIが4台あったが,今は1台だけなので,数をこなすことは難しい.
これで,自分に取っては「時間が空く」ので,趣味が出来るというわけ.
自分なりの「セミリタイヤ」であろう.
自分的には?なものだが,多くの脳外科がすでに異動,転向した科目
4)リハビリ
今のリハビリの半分が,脳卒中後の状態.
それにあわせて,痙縮などいくつも問題があり,今はリハビリ科の医師がボトックスを打ったりしている.今後は高齢引退脳外科医が参入していくかも.しかしリハビリ科自体は教育制度も整っているので,高齢化した医師がその専門医をとれるものではない.
自分的には,あまり選択肢にははいっていない.
これは,状況が変われば考えるが,リハビリ学会にはいっても,今の状態では時間が無い.自分は別のプラスアルファが多いので,これは中止の項目.