9月29日(金)の夕方,脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の患者さんが,運ばれてきた.
夕方17時半頃.まあ,全麻で開頭ネッククリッピングをすれば良い.
別に脳外科をしていたら,別にどうということはない.
よくある日常診療.
問題は,こちらのきわめてパーソナルな事情.
要は,翌日,翌々日は病院旅行.行き先は自分一人なら絶対行かないような有名な観光地.
個人的には,行ってみたく楽しみにしていた.
普通は,それはキャンセルして手術したら良い.
脳外科なら迷うような選択肢ではない.
Just period. NO problem.
なのが普通の事情.
しかし,30(土)の夜には,自分の手品を見せる枠が15分,儲けられていた.
観光地の有名なホテルでは,ある.
従来の3個の人前で受ける手品とは別に,
自分も,必死に考えて,新ネタを作り上げていた.
その内容は,よく,空中から何個も花がでてくるものがある.それを帽子の中へいれるもの.
それだけでは,全くおもしろくない.
自分は,インディ ジョーンズ ブランドの帽子をそのために購入.
そして,仕掛けを作って,2段落ちの,華やかな手品を完成させた.
そのために,嫁さんに電話して,帽子と同色の布地も購入してもらった.
27,28日は,忙しい中,睡眠時間4時間ぐらいで,手品の道具作りと練習.
目がしょぼついていた.
29日は,その日に退院する人,30日に退院する人に説明.
非常に忙しかった.
それもやり抜いて,17時半には車で買い物に.
患者の初期対応は,当日当番の別の脳外科医が対応.
患者さんが運ばれる直前は,自分は,車で花屋さんに行って,本物のバラの花束を購入.
もう一つは,乾燥したバラの花びらのポプリを購入したら仕込みは完成と,
車を走らせていたら,電話がなってくも膜下出血とのこと.
病院の駐車場に帰ってくると,病院旅行の幹事さんが,偶然歩いてきて
「あしたは,手品はできますか?」と聞いてきたので,その人に花束をみせて,内容は説明せず「ようやく準備は全部できた」と説明して,
CT室へいくと,すでに脳動脈瘤は判明していた.
18時前.「前の病院なら説明して,オペが終わるのは24時ぐらいかな?」と計算した.
そこから,家族に説明.
麻酔の医師も常勤がいないので,呼び出し.
それよりも,大事なことは,もう一人の脳外科医も日曜日は不在と判明したこと.
手術をして,翌日あるいは翌々日は脳外科医がいないことになる.
それでは信用を失う.
家族は「ここでやってください」という.
麻酔科医師が遅れて到着,結局,執刀は22時からになった.
手術は難渋.なんとかうまくいった.
人には言えないが,手品の練習で寝不足で目がショボショボしていたので,
大変であった.
「手品」の練習をしていて,「手術」がうまくいかないのは,本末転倒なので,
なんとかやり抜いた.
ということで,旅行当日朝4時半に病室へ帰室.
説明して,帰宅というか,半単身赴任のアパートに帰ったのが,朝の6時だった.
もう,旅行の幹事には,病院旅行はキャンセルとCT部屋で手術前に連絡は済み.
旅行は7時前に病院をバスで出発なので,いっそ,出発前に皆に見せようかとも思ったが,
花束の細工も出来ていないので,あきらめた.
サービス精神が旺盛すぎるかもと疲れた頭で考えた.
手術をするときめた時点で,「1年に一回の旅行はキャンセル」と決まった.
おかげで,空白の二日間が生まれたが,
土曜日も回診,外来の手伝いをしてヘトヘトでした.
花束は,幹事の家においたままになった様.
努力が花開くこともなく,散っていった.
買ったバラの花束代もかなり高額だった.
手術は 専門的にはICGの管球が飛んで,動脈瘤の完全閉塞が確認できなかったりで,
難渋に次ぐ難渋であった.
前日の夕方なら,大学からの若い先生がいたし,手術もしやすかった.
あるいは,自分が旅行に出てしまっていたら,それは断るしかない.
まさにworst timing でした.
自分の個人的な事情ではあるが,患者さんにとっては良かったことだと思う.
別件.
前回の時は,9月16日朝に歩いてきた人がSAHであった.
その日の夕方には,介護士の人達120名に「脳卒中を見つけたらどうするか」というので,
19時から講演会で,自分が1時間しゃべらないといけなかった.
しかし,クリップはかかったが,19時には間に合わない.
そのために,120名の出席予定者に「講演会は延期」の連絡を17時半にしてもらった.
おかげで「あそこの病院でも,くも膜下出血の手術をしているんだ」と宣伝にはなった.
年に一回の講演会も延期,年に一回の病院旅行も行けず.
「全然 ダメじゃん」と言いたい.