脳外科勉強会その3 GCS (Glasgou Coma Scale) の説明

病棟で良く聞く
GCSに対する質問に答えました.

世界標準となったGCSについての詳しい説明です.

「意識レベルの見方」は,まとめたのがどっかにいったので,
先にこちらを出しておきます.

意識レベルの定義は,別項目で説明.

ところで,「開眼」,「会話」,「筋肉の運動」
項目だけで,本当に意識がわかるのか?
という疑問は常にあります.

基本の基本は,「急に意識が低下した時の観察項目」
として,この3項目を選んでみたということです.
他にも,呼吸状態,聴力に対する反応などいくつも
現場では観察しています.

良くある質問を頻度順で説明します.

【質問】GCSは,植物状態にも使えますか?

非常に大事な質問です.
強調しておきたいのが,GCSは,
「意識が落ちた,急な時期」のための評価項目です.

 人間は「昼行動物」です.
太陽の光は,活動をコントロールしています.
重度の脳障害を受けたときは,その「概日リズム」が
壊れます.

GCSは,日内リズムが最初の脳障害から徐々に戻ってきて,
昼に目をあけて夜に目をつぶる遷延性意識障害,
いわゆる植物状態の人を観察,描出するためのものでは
ありません.
いわゆる概日周期,サーカディアンリズム,
人間の持つ日内リズムは,重症脳卒中や脳挫傷などの
初期は,壊れます.

徐々に,脳幹の機能が戻ってきて,朝日をあびて,
交感神経が活動して開眼して,
夜,暗くなって副交感優位になって閉眼するようになるには,
発症から2週間ぐらいかかります.
視床下部,脳幹の機能が戻ってくると言うことを意味します.
その状態から,後の状況を評価するために
開発されたスケールではありません.

目的は,「急激な意識障害になった時の評価の仕方」
です.

個人のブログなどで,
植物状態の家族さんの看病日記などで,
「今は,自発開眼するから意識が上がっている」と
記載されていたのを見たことがあります.

その状態は,概日リズムが戻っていて
昼間は開眼している状態です.
大脳機能は障害をうけたままで回復していない状態です.

発症から半年以上経過して,いわゆる植物状態になれば,
そこから回復してくる率は.ほぼゼロです.
小児などでは,ごくまれに 2,3年かけて改善してくる症例が
論文よりは,新聞に出ることがあります.

また,何年間も寝たきりになっていた人が,
急に会話が出来るようになったり,カラオケで歌うように
なったりする例があります.

それらの症例の特徴は,よく聞くと,
「わかっていたけどしゃべれなかった」
という感じの表現を,本人がすることがあります.
要は,強い運動性失語のような状況で,
意識は,ある程度はある状態であったことになります.

側坐核のドーパミン系すなわち「表出系」のみが
障害されていて,それが修復したからなどが説としてありました.
意識障害の患者さんにドーパミン系を賦活する薬は使われています

広範囲に脳幹,大脳が障害をうけて,
半年以上経過して寝たきりで存命している状態の描出は
GCS, JCSの記載目的対象ではないことは
わかっておいたほうが良いです.

【質問】GCSの言葉の解釈がわかりにくい.
人によって点数のつけ方も異なることがあるのはなぜですか?

そもそも,一定の「定義通りの刺激」が与えられません.
JCSでも「大声で」とか「ゆすぶって」とか
「痛み刺激」でとか書いてあります.
   
要は,同じ刺激のつもりでも「与える刺激の強さが,その都度違うこと」
同じ痛み刺激のつもりでも,AさんとBさんの「大声」は絶対に異なります.
さらに,与える痛みの程度も違っていることがあります.

さらには,特殊な反応は見たことがない人がいます.
「除皮質姿勢」や「徐脳姿勢」など見たこともない
医療人も大勢います.
 
経験のあまりない若手医師,看護師などは,
「へんな姿勢」ぐらいしか感じないので,
どれがどれやらわからないというところもあります.

以前,ある時に,あるISLSのインストラクターが,

「痛み刺激で除皮質姿位になったので,
麻痺はなしと解釈します.」
と説明をしていたのを聞いて,驚きました.
「吹っ飛んだ」と言っても良い衝撃でした.
大間違いです.

正常から低下していくレベルとしては,

「麻痺が軽度」
「麻痺が重度」
「ほとんどうごかない.ぴくつく程度」
「除皮質姿位」
「除脳姿位」
「全く動かない」
となります.
要するに,麻痺が非常に強い状態よりも,
除皮質姿位を取ることの方が脳障害としては,
やられている程度が強いということです.
「通常では出現しない異常反応がでている」ということで,
「麻痺が無い」とは大違いです.

もとにもどりますが,「刺激の強さ」に関しては,
人によって「患者への刺激が一定でない.」
「異常反応が見たこともないので,はっきりわからない」
「以上反応の解釈自体がわかっていない」
などで,つける点数が異なってきます.
「上肢が逃げる」のと「除皮質姿勢」の違いなどは,
しきりにISLSなどで講義されています.

【質問】GCSの長所,良いところはどこですか?

長所は,意識レベルで「覚醒」という言葉は使わずに、
意識の内容を開眼、言語、運動の三分野にわけて総合的に評価すれば、
それが意識状態の程度を代行していると割り切ったことです.

ここでは、開眼、運動は極めて動物的であり普遍的です.
猫,犬の意識状態も,これで点数化できます.
言語のみ人間の高次機能の反映を示しています.
他の要素よりも,これら上位三項目に特化させたところが,
受け入れられた理由です.

意識の要素を分解して,上位三項目だけに特化させたので,
他と違って普遍性というか世界中に広まったわけです.

人間の運動能力を「走る」「飛ぶ」「投げる」
に特化させて,陸上の10種競技をオリンピックで行いますが,
その競技には「泳ぐ」項目が入っていません.
さらには「持ち上げる」で重量挙げを競技に入れてしまうと,
10種競技の選手は壊れてしまうと思います.

人間の運動能力のどの項目を選んで評価するかというのは,
意識レベルをみるのと似たところがあります.

要は,オリンピックの十種競技のように,
いろいろな要素のなかで,組み合わせてみたら,
「開眼」「会話」「運動」で必要条件は満たされたと
解釈して,そのようになったわけです.

それらの合計点が全体としては,
特典が上ほど正常な意識に近く,
合計点が低いほど重篤な状態であると
統計が出て,これで行こうと決まったわけです.

【質問】GCSの短所,欠点はありますか?

短所としては,そもそもの発表時(1974年)は,
各項目の合計点などで評価するつもりはなかったのに,
5年後に,その合計点が意識レベルを表すことになってしまった点です.

合計点数は3点から15点で直線的に意識レベルの高さ、
低さが分かるとする
論文がでたためです.

その内容は、まちまちである点です.
GCS:9点は18通りあり,全部で120通りあります.
常識的にありえない,出てこない組み合わせもあります.
例えば,E4V5M1では,開眼して普通に会話して
運動は全くないというのは,
頚髄損傷で完全四肢麻痺なら四肢麻痺はありますが,
会話ができるので,声帯の筋肉は動いていることになります.
したがってその上の顔面の筋肉は動くはずです.
口を尖らせたりの命令には応じないとおかしいです.
M1点で,全く顔面,四肢の筋肉が動かないのに
会話可能,開眼可能というのはありえません.

また,8点でもE1V1M6などは,極めて考えにくいです.
刺激で目も明けられない.言葉もまったくしゃべらない人が,
こちらの命令通りに手足を動かしてくれる状態というのは,
耳が聞こえない,言葉がわからないなどではないので,
開眼の神経,筋肉の障害,すなわち両側動眼神経麻痺で,
声帯の迷走神経麻痺があり,大脳,顔面神経,
脊髄,四肢の運動神経は正常となるでしょうか?

いろいろ,考えると興味深いですが,
そこまで突っ込んだ話を書いてある本は一切ありません.

また,どの検査項目にそって評価するのが、
個々の患者にとってベストなのかは実際は微妙に違います.

挿管した時点で、言語の反応は検査できないことになっています.
実際は,気管挿管されたらVTと書いて合計点の場合は,
1点として計算するとのことです.

【質問】現実的な使われ方は、どうですか?
    どれぐらいの点数ならどうなのですか?

よくある基準は,
GCS:13点以上は軽症として分類します.13,14,15点は軽症
GCS:7点以下は重症として分類します.8点未満とも言われます.
GCS: 4点, 3点は昏睡扱いです.
GCS: 8,9,10,11,12点は中等度障害となります.

脳出血などでも,
手術したほうが良いのはGCSで8-12点の間の
中間ぐらいの障害の人の血腫を取り除けば,
予後が改善するとあります.
初めから軽症なら手術も不要です.
さらに昏睡なら,手術をしても無駄です.

【質問】会話の点数は,痛み刺激などありませんが,どうなっていますか?

痛み刺激を与えて,会話をさせるのは
スパイに対する拷問などの特殊な場合に
必要な情報を得る場合などで,
「意識レベルをみる」こととは
全く別の話題です.

GCS:言葉による応答:5点満点

V5点:見当識あり:oriented
V4点:錯乱状態: confused conversation, but able to answer questions
V3点:不適当な言葉:Inappropriate responses, words discernible
V2点:理解できない声(うなり声):Incomprehensive speech
V1点:発声がない: absent

  それぞれに説明します.

【質問】見当識とはなんですか?

意識正常では,人間は見当識があります.
見当識とは,
「時間」,
「空間」,
「人間(関係)」がわかることです.
  
大体,今が夏か冬か,何月か,何曜日か,
いつも人間は確認をしながら生活をしています.
後,何時間ぐらいで家に帰らないといけないなどは,
常に無意識に時間も計算しています.

さらに,自分が今いる空間に関しても常に意識しています.
風呂に入っている.病院の待合にいるなどです.

さらに,自分の周りの人間のことを意識しています.

これらの情報は,自分自身の情報の次に大事なことです.
要は,現在の自分の置かれている状況を無意識に人間は常に確認をしているわけです.
それが,正しい状態だと,見当識(orientation)があるというわけです.

それが失われると「失見当識」となります.
「時間」、「空間」、「人間関係」の順番に失われます.

あまり忙しいと、
通常でも「もう3時なのか、昼ごはんは食べる時間がなかった。」

あるいは,宴会で飲みまくって,
昨日は,二次会までは覚えていたけど.
つい,酔っ払って寝てしまったが、ここはどこか?」
「私の部屋よ」などはドラマでありがちな話です.
これは,時間,空間だけでなく,別の意味で「人間関係」も壊れる話です.

「Time, place, personと順番に障害を受ける」と覚えておきます.
普通に考えると,時間は,目に見えなく抽象的な概念です.
空間は,目に見えて,触ることもできます.
人間は,いつも見て,触ることもできて,ある意味,オンリーワンで具体的です.

暦は,人間が考えて作り上げた高度な概念なので「何月何日何曜日」のほうが,
具体的な人間,例えば「自分の親」よりも,正確にはわからなくなるのが当然です.

見当識は,自分の,現在置かれている状況の理解です.
これは,小学生の時の同級生に20年ぶりに会って,名前が出ないなどの
物忘れの評価ではないので,誤解しないでください.

以上のことから、見当識があるかないかは,この3項目を正確に答えないと
いけなくなります.

最初の質問の,「自分の誕生日、名前、年齢」が言えたら、
次は「今日は何日かわかるか?」と聞きます.
わからなければ、続いて、自分が今どこにいるのか聞きます.
「家にいる。」が一番多い誤答、わからなければ、
ここはホテル、学校、病院と順番に聞いていき、どこまでわかるか確認します.
さらにそばにいる親族は、どんな関係に当たるか聞きます.
これらのどれかが答えられなければ、失見当識ありとなります.

【質問】V4点,V3点,V2点がもう少しわかりやすく覚えられないでしょうか?
  
言語,会話で
5点は満点なので,わかりやすいです.
覚えやすいには,
4点は,「会話」はなんとかしているが,内容がおかしい.
3点は,「発語」はなんとかしている.要は,単語は言えている.
2点は,「発声」はなんとかしている.何らかの声は出している.
で大体正しく点数がつきます.

「会話」「発語」「発声」と覚えます.

4点は混乱状態であり,誤答が多い状態です.
「今何月?」に「間違った月」を答える、すなわち失見当識の状態で4点です.
「夏」に「今は冬」と答えたりしても4点.
「今は夏?」に「頭が痛いので助けてくれー」と答えと叫ぶのは4点.
会話体にはなっています.

3点:会話が成り立たない。単語は何か言っている。
何を聞いても,「痛い」としか言わない人は,結構,救急車で運ばれてきます.
あるいは,直前に起きたことを繰り返したりします.
刑事ドラマで,うわ言のように,同じことを繰り返して,意味不明のまま,
その直後に死亡したりは,よくあります.

2点:なにか声を発しているが、こちらとは意思疎通ができないだけでなく、
言っている単語も聞き取れない状態をいいます.
「ぐわー」「うー」などと泡を吹いて,うめく患者さんも多いです.
そこで激しく嘔吐でもあれば,脳圧が上がっているだろうと心配します.

左脳出血の経過で,「あー」,「うー」しか言えない人が回復して,
「おはよう」と単語を言えた時には,失語の障害,回復も同じ経過をたどると
納得しました.
しかし,さらに改善して,文章になるのはなかなか困難であり,
会話の能力は,脳高次機能なのだと納得すると思います.

【質問】開眼と運動は,子供でも似たようで分かりますが,
  会話は子供ではどのように点数をつけますか?
  まだ,しゃべれない子供用GCSはあるのですか?

あります.
For children under 5,
5歳未満用です.英語でunderは「未満」の意味です.

the verbal response criteria are adjusted as follow
5歳未満では以下のように変えて点数をつけます.

すこし会話ができるようになったレベルです.
2 to 5 YRS 2歳から5歳未満まで
5  Appropriate words or phrases     単語とフレーズが正しい
4  Inappropriate words        単語があっていない
3  Persistent cries and/or screams  泣いたり叫んだりし続けている
2  Grunts               唸り声をあげている.
1  No response            反応なし.

Grunt:うめく。ぶうぶう泣く。うなるように言う。

適切な単語が出れば満点,
単語が間違っていたら4点
泣き叫んでいたら3点,
うめくだけなら2点
反応なしが1点です.

ゼロ歳から2歳未満では,以下の通りです.
しゃべる前,単語が出る前の乳幼児という位置づけです.
 0 to 23 Mos.
5   Smiles or coos appropriately   スマイル
4   Cries and consolable       泣くけどあやせられる
3   Persistent inappropriate crying &/or screaming 
    泣いてさけんでおかしい
2   Grunts or is agitated or restless  イライラしたりうめき声
1   No response
  
Coo:優しい声でささやく
Consolable:慰められる、気を休めることができる

大人の「会話」に対応するものは「機嫌のよさ」になります.
泣き続けているほうが,興奮してイライラしてうめくほうが点数は高いです.
勘違いしないのは,ママがいなくて「落ちつきがない」のは正常です.
通常とことなる興奮状態で,泡を吹いてうめく感じです.
泣くのは,危険な徴候です.それが泣かなくなればさらに危険です.

以前,交通事故かなにかで,赤ちゃんを抱っこして母親が連れてきましたが,
きわめて危険と一見してわかりました.ぐったりとして呼吸が1分間に2,3回で
すでに1に近かったですが,母親は「ずっと寝ている」と解釈していました.

JCSでも子供用があります.

GCSもJCSも,赤ちゃんは,
ニコニコと機嫌がよいのが,
意識レベルが高いことになります.

小児の頭部外傷などで,半日経過して,にこにこ笑っていれば,
満点となり,様子を見たらよいとなります.

【質問】運動のBest motor responseの6点分の解釈ですが,
ベストとは,何を意味するのでしょうか?

GCSの基本の基本で,一番間違いやすいところです.
例)右上肢が除脳姿位、左上肢が除皮質姿位の場合、
  どちらをとるか?
GCSでの定義:Best motor responseのベストの意味は、
麻痺していない側,あるいは軽い方でのもっとも高度な
四肢の運動様式を「採用」します.

ということは,一方が除皮質姿勢で他方が徐脳姿勢なら,
除皮質姿勢の3点を採用します.

間違いやすいのは,
「意識レベルを評価する.」ことと,
「四肢の麻痺の程度を評価する」こととは
違うことです.

「麻痺側がこれぐらい動くから,運動の点数はこうなって,
意識はこれぐらい」
というのは,考え方自体が最初から間違っています.

四肢は完全麻痺だが,意識レベルは満点という人は
いくらでもいます.末梢性,代謝性麻痺ならよくあります.

自分は「意識レベル」を診ているのか,
「麻痺のレベル」を測定しているのか,
わけて行うことが大事です.

少なくとも,麻痺があるから意識も悪いと
早合点しないことは重要です.

【質問】一番良い運動を引き出すのに,
どんな口頭の質問をしたら得られますか?

運動による応答:6点満点の6点.
6点:命令に従う。Obeys commands
この6点には,“The patient does simple things as asked.”とあります.
「言われた簡単なことができる」です.

「グーパーできますか? 」
「それを二回続けてできますか?」
「人差し指が出ますか?」
等が出来れば,間違いなく6点です.

非常に高い機能が残っていることになります.
上記の質問は,筋肉の動きとしては,
二つ以上の動作が入っています.

さらに,「言語の完全な理解力が残っている」
ことを示しています.
実際はそこまでは要求されていません.

以前,救急外来でAVMからの脳出血で運ばれた大学院生に
「誕生日はいつですか?」と聞くと,
右手で,指を2本,次に5本出してきました.
「2月5日ですか?」と聞くとうなずきました.

Mは6点です.
右の頭頂葉の大きな出血で左麻痺でした.
手術後に左上下肢麻痺は残りましたが,無事に
博士号まで取得しました.
「優秀な人間は,意識が落ちても優秀な」と
納得した症例でした.

【質問】痛み刺激に対しての反応が,多くのところで書いてあります.
正しい痛み刺激の与え方はどんなものですか?

基本的には「身体に痕が残らないように与える」ことです.

痛み刺激の与え方ですが,
以前は,「乳首をねじる」「腹をねじる」「針で刺す」などが,
記載されていました.
今は,「痕(あと)になるようなことはしない」と
記載されています.
痛み刺激のテストは,虐待ではないです.

一番推薦されるのは,爪を挟むです.
自分の爪を患者の爪に立てて挟み込みます.
二本の指で被験者,患者の指を挟みこめば,自分にも反作用で
それなりの痛み刺激は来るので,わかりやすいです.

それでもだめなら,鉛筆,ボールペンを使って,
爪を挟むです.
これで,反対側の手が身体をわたってくれば5点です.

あるいは,上眼窩孔を押すというものがあります.
これも古典的ですが,これは三叉神経第一枝が
そこから出てくるので,そこを押せば痛いというものです.
その時に手が鎖骨を超えて手が上がってくれば5点です.

オリジナルの定義にも,その二つが書いてあります.

実際は,爪への痛み刺激の方が痛いです.

爪の先というか,指先の腹には痛みの神経終末が集まっています.
と言うよりも,多くの感覚神経の終末があります.

三叉神経の束が出てくる孔では,それほど強く痛みは感じません.
それで顔をしかめて,四肢が動かなければ,点数はぐっと落ちます.

要は「痛い部位がわかって,そこへ目的をもって,
四肢,特に上肢を持ってくるかどうかを調べる」が基本です.

右足趾の爪をボールペンと指で挟みこんで,刺激を与え,
左足でこちらを蹴ってくれば,5点になります.
しかし,両側麻痺ではこの点数はつけにくいです.

オリジナルの痛み刺激は,極めて強いものです.
爪を挟み込んで,意識清明の人なら大声を上げて痛がるような
レベルということになっています.

他に有名なのは,sternal rubです.
日本語では胸骨部を押す,拳骨にして
近位指節間接(PIP)部分で,ぐりぐり押すことです.

家族などの前で痛み刺激を与えるなら,
上肢の指を,自分の指で押すのが一番です.
「こちらも痛さがわかる」からです.

5点:痛み刺激の部位に手足を持ってきて払う.

Purposeful movement to painful stimulus.
Localizes painful stimuli
Localizes to pain.
(Purposeful movements towards painful stimuli; e.g.,
hand crosses mid-line and
gets above clavicle when supra-orbital pressure applied.)
と記載されています.

【質問】倒れている人がいます.どうしたらよいですか?

答えは,「痛み刺激を最初に与える」です.

BLSなどでは,道や駅,建物の構内で,
「倒れている人を発見した時に,まず,何をしますか?」
という質問があります.
「まずは,大声で呼びかける」
「身体を揺さぶる」そして,反応が無い時は,
呼吸の有無を「見て,聞いて,感じて」となっています.

呼吸が無ければ,心肺蘇生で心マです.
しかし,一般的には,最も手っ取り早いのは,
まずは,「痛み刺激を与える」です.

それで,その人が飛び起きて,
「何しよんじゃ,われ,痛いやないか」と反応があれば,
それで良いわけです.

「声掛け」,「身体をゆすぶる」など
段階的な評価は,時間の無駄です.

倒れている場所で,意識レベルの詳細な評価をする理由はありません.
痛み刺激でまったく反応がなければ,次のステップ,
呼吸の有無を確認するのが,近道でわかりやすいです.

痛み刺激で,開眼,発語の反応だけでなく
身体もよじらなければ,それだけでかなりの重症となります.

【質問】痛み刺激の場所から逃げるのが,正常な反応ではないですか?
 ものにあたったりしたら,そこから離れますが.

これには,あいまいな部分が含まれています.
よく間違うのが,4点の「逃げる」と
5点の「痛いところへ反対の手を持っていく」です.

これは,蚊に刺された時に,思い切り腕を振って逃げるときと
反対の手でたたきに行く時があります.

おそらく,睡眠不足でへとへとで,深い眠りの時は,
蚊に刺されても,ぐっすり寝てしまっていて,朝まで
気が付かない.

それは,蚊に刺される程度なら自分が死ぬことがないからです.

それほどでも無い時は,上肢を振って逃げて,布団をかぶりなおして
寝てしまう.

半分,起きかけている時には,「おそらく蚊であろう」と判断をつけて,
反対側の手で蚊に刺されている最中に
払いのけている.

完全に起きているときは,蚊が止まって,あるいは飛んでいる時に
叩き潰すようにしている.

正常の反応はそんな感じで覚えたら覚えやすいです.

それらの共通点は,「正常の姿勢」であることです.

意識障害だろうという場合,たいていは,
四肢は伸びきって横たわっています.

その時に,指に痛みを与えて,肘の屈曲,前腕の回内など
脇をあげて,上肢が逃げることが起きれば,
最低4点はあるということになります.

4点:四肢を屈曲する。
上肢も下肢も,痛みを与えると逃げる。
Withdraws from pain,
 Normal Flexion,
Withdrawal to painful stimuli
Flexion/Withdrawal to pain
(flexion of elbow, supination of forearm, flexion of wrist
when supra-orbital pressure applied ;
pulls part of body away when nailbed pinched),

正常の逃避運動の動きの説明です.
上眼窩部を圧迫すると,肘は曲り,前腕を回外し,手関節を曲げる.
この上肢の動きは,誰かに頭をたたかれそうになった時の防御姿勢です.
指を挟むと体全体をそこから遠ざける.

ここまでは,正常の四肢の動きをします.

【質問】痛み刺激で異常な姿勢になることがありますが,
それは,何を意味するのですか?
   
GCSでは3点,2点を,
3点:異常屈曲:上肢の除皮質姿勢が典型例:abnormal (spastic) flexion
2点:異常伸展:これは除脳姿勢のこと。
Extensor (rigid) responseと点数わけしています.

【質問】除皮質姿勢はどんな姿勢ですか?
その姿勢が起きることは,何を意味しているのですか?
一旦起きると,二度と消えませんか?

3点の除皮質姿勢は,上肢の異常な屈曲が特徴的です.
上肢は,身体にくっつけて,肘はまげて,手関節も屈曲させます.
Abnormal flexion to pain (flexor posturing:
adduction of arm, internal rotation of shoulder,
pronation of forearm,flexion of wrist,
decorticate response)

直訳すると,上肢の内転,肩の内向き回転,前腕回内,
手関節の屈曲となります.
下肢は,膝関節伸展,足関節も伸展となります.
上肢は屈曲,下肢は伸びきるというポジション.

これは,大脳皮質からの命令というか連絡が途絶えた形です.
したがって,被殻出血,視床出血など
大脳皮質と脳幹の間の脳出血の
大きなものでは,結構頻繁に起きます.

圧迫によって,連絡路の機能が落ちれば
除皮質姿勢になりますが,
血腫が引いて,除皮質姿勢がなくなって,
改善することも多いです.
重度の障害では,
両側上肢を胸の上に屈曲させたまま,
植物状態に移行する人もいます.

【質問】痛み刺激に対する,
上肢の「異常屈曲」と「正常の屈曲」は,
見た目はどこが違うのですか?

上肢の異常屈曲は除皮質姿勢です.
正常の屈曲は「逃避運動」です.

正常の上肢の屈曲は,「脇が開きます」.
顔を上からたたかれそうになった時の防御姿勢みたいです.
肘を身体から離すようにします.

異常屈曲の場合は,
正常の状態では,たとえ睡眠中でも決してとることのない姿勢です.
肩を内側に回して,脇を閉めて,肘をまげて手関節も屈曲させます.
肘が屈曲しておれば,間違いなく「除皮質姿勢」です.
「脇があかない」と覚えておくとわかりやすいです.

実際は,一度でもみたら,まず忘れません.

【質問】除脳姿勢は,どんな姿勢で
何が起きているのですか?
どうなるのですか?
一度出たら,二度と消えませんか?

これは,大脳と脳幹が遮断されたと考えるとわかりやすいです.

2点の徐脳姿勢は,Extension to pain
 (extensor posturing: abduction of arm,
external rotation of shoulder, supination of forearm,
extension of wrist, decerebrate response)
直訳すると,上肢は伸展位,腕の外転,肩の外向き回転,前腕回外,
手関節の伸展となります.
下肢は,除皮質姿勢と同じです.

除脳姿勢の「除脳」は,
大脳と脳幹が離れたものと理解するとわかりやすいです.

連絡が途絶えた部位は,中脳レベルと言われています.
これは,猫の実験で,中脳上丘と下丘の間で切断すると除脳姿勢が出るからです.
これは,中脳以下の脳幹の反射です.

徐脳姿勢も,視床出血が下にのびて中脳まで及ぶと出てきます.
血腫による圧迫で一時的に障害されているのなら,血腫が吸収されたら,
消失してくる症例もあります.
逆に,上肢が伸びきって固定した状態で植物状態になる患者さんもいます

【質問】除皮質姿勢と除脳姿勢では,どちらが重症ですか?

当然、除脳のほうが重篤です.
徐脳姿勢は,「大脳全体の機能が落ちた」と考えて,
除皮質姿勢は「大脳皮質の機能が落ちた」と覚えたらよいと思います.

【質問】GCSでは,3点,2点を分けています.
JCSはどちらも200点になりますが
そこは,どう評価していますか?

JCSでは,どちらも異常姿勢ということで200点に入っています.

この欠点を補うために,
日本は200F, 200Eという項目を入れた
ECS (Emergency Coma Scale)を2002年に開発,発表しました.
200FのFは異常屈曲のflexionの略です.除皮質姿勢の意味です.
200EのEは異常伸展のextensionの略です.除脳姿勢の意味です.

【質問】正常の逃避による屈曲はGCSでは4点ですが,
JCSは100点なんでしょうか?

日本が2002年に発表したECSでは,GCSのM4点はなんと表記するかです.
それは100Wと決めました.

Wはwithdrawで「脇をあけて,上肢を引っ込める」の略です.
顔をしかめるも100Wに入っています.

【質問】GCSで,痛みの部位に四肢をもっていくは5点ですが,
JCSでは,これも100点ですが,どうなんでしょうか?
大雑把ではないでしょうか?

100点には,
「痛みの部位に持っていく」と「逃避」
含まれていました.
新しいECSでは100Lでlocalizeの略ですが,
部位がわかる」分けました.

日本は遅ればせながら,
GCSと同じような表記ができたわけです.
異常姿勢に差をつけたことと,
痛みに対する正常な反応の違いにも
点数を与えたということになります.

GCS;
M5点 = 100L
M4点 = 100W
M3点 = 200F
M2点 = 200E
と新しい日本のECSでは表記します.
    まだ普及していませんが,
今後はこちらを広めるつもりのようです.

100点より意識障害が高度の場合は,開眼せず言葉の応答もないので,
「動物的な反応」で診るしかないわけです.
となると人種,教育レベル等で差が出ることは無いです.

【質問】痛み刺激で全く動きません.どうなっていますか?

これは,GCSでは1点:全く反応なし。Makes no movements,
No motor response とされています.

これは,JCSなら300点で,問題ないです.
これは,最重症です.

要は,脳幹の反射が,ほとんど,なくなったことを意味します.
この時点では,橋レベルまで障害を受けています.

上眼窩裂への圧痛でもまったく顔をしかめない.
さらに,角膜反射が消失しているとなると
角膜への触覚,上眼窩裂表面への痛み刺激は三叉神経です.
痛みに反応して,顔をしかめるのは顔面神経が興奮しての筋肉活動です..
どちらも橋に中枢があります.

その反射が無いということなので,
大脳,中脳,橋と降りてきて,橋のレベルまでは
機能が働いていないことになります.

それで,呼吸をしているということは,

 延髄だけが生きているということです.

今回はGCSについて,
特に痛み刺激の仕方,その反応のみかたを中心に解説しました.

自分で過去に書いた説明文ですが、
何らかの参考になるかもですので、
アップしてみました。
    

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コメント

  1. まろ より:

    はじまして。興味深く読ませてもらいました。

    一つだけ言わせてもらいますと、М5の評価をするためには体の中枢に痛み刺激を与えないと評価しにくいです。爪を挟んだりして刺激を与えた場合、まず逃げてしまいます。
    逃げないで、反対の手を刺激している手を振り払うなんてことをするでしょうか?
    その前に痛み刺激から逃げると思います。
    胸骨などに痛みを与えれば、逃げにくいので、反対ので刺激を振り払うことになると思います。
    参考になれば・・・