譫妄, 特に夜間譫妄についての勉強

家族も全く予想外の状態.
「こんな人ではなかった」

一時的なものなので,脳外科,神経内科病棟では
理解と知識と対応が必要.

今回も,自分のお勉強したことを記載.
病棟でよく見る「譫妄」について,
入院中の管理について,多くの医療スタッフ,家族が困る
「譫妄」についての説明.

脳出血,くも膜下出血,脳挫傷の
入院患者さんにも多く認めます.

しかし,高齢者で別のことで入院,手術,
たとえば胃癌の手術などの後にも,

激しい不穏,譫妄状態が起きたりして,
周囲の家人,親戚が驚くことがあります.


統計では,
癌の手術後などは30%に
譫妄状態がでるというものもあります.

少々の不穏は,医療人は慣れています.
しかし,譫妄は,患者自身に危険を及ぼすので,
拘束,鎮静としないといけないことが多く,

簡単に言うと,手がかかります.

譫妄,怒鳴り声などは,
夜の脳外科,神経内科などの脳疾患関係病棟の風物詩です.

大きな声が聞こえている間は,大丈夫な証明みたいなもの.

シンガポールの「ナイトズー」ツアーは
夜行性動物を観察できます.

夜間譫妄などの特徴的な行動,言動は
ある意味,人間も動物であると言う証明みたいなものです.

【質問】譫妄の言葉としての意味は何ですか.
 
譫妄の「譫」の字は,「たわごと(戯言),

うわごと(譫言)のようにとりとめも無くしゃべる言葉」
の意味です.


「妄」は「我を忘れた振る舞いをする様子」と
されています.
「全く我を忘れて,意味不明のことを言い続ける状態」と
いうのが,一般人にはわかりやすい説明です.
しかしそれには
幻覚,昼夜逆転,易怒性などが含まれていません.

【質問】譫妄は病気ですか症状ですか?

  症状の一つです.

「脳梗塞による失語症状」と同じように
「脳挫傷後の一時的な譫妄状態」などと使います.

 認知症は一つの表現系で,その原因はたくさんありますが,
 それらと同じで「譫妄状態」になる原因もたくさんあります.

「症候群」という印象です.

「譫妄」に医学的な定義はありますか?

 DSM-IVの定義があります.

基準A.  意識障害 (環境認識の清明度の低下)
     注意を集中し,維持し,転動する能力が障害される.
     この,「転動」という日本語は,聞いたことが無いですが,
     要は,意識清明の時は,状況の変化に一定の注意力を,
     常に払い続けているのが,ついて行けない状態ということ.
基準B: 認知の変化
    記憶障害,失見当識,
基準C: 障害は短時間のうちに出現し,一日の経過の中で変動する.
    日内変動を伴う.
基準D: その障害が,一般身体疾患の直接的な生理的結果により
    引き起こされたという証拠がある.

  要は,譫妄は,意識障害の中の一つのパターンになります.

ICD-10の診断基準
A.意識混濁,すなわち周囲に対する認識の明瞭性の減退,
   注意の集中,持続,移行能力の減退
B.認知障害
(1)即時想起,近時記憶の障害あり,遠隔記憶は比較的保たれる.
(2)時間,場所または人物に関する見当識障害
C. 精神運動障害のうち,少なくとも一つがある.
(1)寡黙から多動への予想しがたい急激な変化
(2)反応時間の延長
(3)会話の増加あるいは減少,驚愕反応の増強
D.睡眠,覚醒障害のうち,少なくとも1つがある.
(1)不眠,睡眠喪失,あるいは睡眠覚醒周期の逆転
(2)症状の夜間増悪
(3)混乱した夢や悪夢,それらは覚醒後に錯覚や幻覚として残る.
E.急激な発症と症状経過の日内変動
F.原因と考えられる基礎疾患があること.

定義の文章は硬いです.
これらの文章で表現される症状は,
人間の高度な精神症状の
ある種の爆発のような表現のような錯覚に陥ります.

簡単に言えば,
「芸術の天才が天啓を受けて,
昼夜関係なく,とりつかれて作品を作り上げる途中のような
神がかりした人間離れした印象」でも多少は似ています.

現実の,「失禁した,ひげもじゃの高齢のおじいさん」,
「目つきの変わったおばあさん」が夜中に車椅子から倒れながら,
大声や金切り声で暴れまくる状況は,想像つきません.

「コロサレルー,タスケテー」などは常套句です.

要は,通常の状態からは逸脱するのは同じですが,
無方向性の爆発が譫妄です.
天啓は,ある種の方向性が無意識に示唆されています.
しかも,その時は意識が清明です.

現実を文章で表現して,
類型化していくと,
このようなまとめになると言うことです.

【質問】譫妄にも分類がありますか?

原因別と症状,症候別に分けることができます.
たいていの説明の本,論文などは厳密に分類して記載はしていません.

有名な,夜間譫妄,
アルコール譫妄(これは,アルコールをやめて3-5日後からでます)
などの症状や,原因の有名なものからの記載が多いです.

要は,頻度順と原因別を分けずに書いてあるものが大半です.

見た目からは
「低活動型」:うつ状態,無関心,傾眠傾向と

「過活動型」:動きまわるタイプにわかれて,
それらの「混合型」もあります.

実際には,ある疾患の急性期の譫妄は「低活動型」のほうが多いです.
管理に困るのは「過活動型」となります.

【質問】譫妄が生じる基礎疾患には何がありますか?

もともとの統合失調症などは除外しておきます.
分類の仕方がいくつもあるようです.
脳外科病棟でよく見るものを列挙します.
A.身体的要因
(1)脳障害:脳卒中,脳炎,脳挫傷,脳腫瘍などの脳の器質的疾患
(2)一般臓器障害:心不全,腎不全,肝障害,糖尿病,低酸素脳症
(3)状態悪化:脱水,貧血,低栄養
(4)薬物

B.環境・心理的要因
1)不安
2)痛み
3)環境の変化(施設入所,転居,独居,入院そのもの)

C.生理的要因: 睡眠障害,加齢

寝不足は,全ての疾患の原因になります.

「加齢状態は,脳の耐える力が落ちている」と考えると理解しやすいです.

高齢者は,微妙なバランスで「一見すると正常」を保っています.
大体が不眠を訴える人は,高齢者と決まっています.

最近は睡眠障害,睡眠の科学,睡眠の健康への影響などが
盛んに研究されているのも,
増加した高齢者が「夜,熟睡しない」からです.

【質問】有名な夜間譫妄の特徴は何ですか?

病棟で一番困るのは,この状態です.
脳血管障害,アルツハイマー,高齢者などにみられます.
夕暮れ時に落ち着きが無くなり,
うろうろと徘徊が始まり,気分が高揚してきます.
これを「黄昏症候群」と言うそうです.

以前,流行した「5時から男」は
意識が清明なので,異なります.
この人達の定義は,仕事もバリバリして,
その後も元気に遊ぶということで,
睡眠障害などは,
キャラのイメージの中に入っていません.

患者さんは夕方の高揚感から,
そのまま夜間譫妄に移行します.
次第に,興奮性,易怒性が出てきて,
目的のはっきりしない行動,
徘徊が高度になり,運動過多性譫妄という状態になります.

睡眠,覚醒周期は著しく障害されます.

明け方にウトウトし出します.
朝の申し送りで,
「ようやく,明け方からウトウトしだしました」というのは
決まり文句の一つです.
ほぼ譫妄のすべての症状がでます.

そもそも,睡眠覚醒周期が狂うこと自体,
高齢者の特徴です.

若い人は,視床下部,脳幹のリズムセンターが確実に時を刻むので,
周期は狂いにくいです.
広範囲の脳挫傷になったりすれば,リズムは狂います.

【質問】譫妄の症状は,どうやってスクリーニングしますか?

一般医療者用のスクリーニング用のリストもでています.

DSM-IVの基準にでてくるのをみていきます.

A.意識・覚醒・環境認識レベル
(1)現実感覚,夢と現実の区別がつかない,ものを見間違えたりする.
   ゴミ箱がトイレに,寝具や点滴瓶が他のものに見えたり,
       天井のシミが虫や生き物にみえたりする.
(2)活動性の低下
      話しかけても反応しない.視線をさける.
(3)興奮:落ち着きが無い,不安な表情,興奮からの暴力
(4)妄想:最近,新たに始まった妄想がある.
   家族,看護スタッフがいじめる.医者に殺される.
(5)気分の変動,情動障害:
      涙もろかったり,怒りっぽかったり,焦ったり,感情が不安定
(6)幻覚:現実には無い声や音が聞こえる.実在しないものが見える.
        身体に虫が這っている(これは,アルコール離断時によく出ます)
       幻視と幻聴に分かれます.
(7) 睡眠・覚醒周期の障害:
   昼夜逆転,あるいは,一日中,傾眠状態で,
   話しかけても,覚醒せず,ウトウトとしている.

B.認知の変化
(1)見当識障害:時間,場所,人間関係がわからない.
(2)記憶障害:急激はじまった記憶障害で,さっき起きたことを忘れる.

C.症状の変動
(1)  数日の間にはじまった.あるいは急激に変化した.
(2)  症状の日内変動がある.

この診断スクリーニングは,
24時間は観察してからとのこと.

教科書,論文では,
早期に発見して精神科に相談すると
書いてあることが多いです.

実際は,精神科医が近くにいてくれる
脳外科病棟はまれというか,ほぼゼロです.

脳外科医が見よう見まねで治療をしています.
マスコミの医療記事で「困ったら専門医を受診しましょう」と
いうのと同じで,ただの決まり文句です.
役にはたちません.

【質問】譫妄と認知症はどう違うのですか?

 認知症の人は脳が弱っているので,譫妄にはなりやすいです.
 しかし,譫妄は若い人の脳挫傷,薬物中毒でもなるので,
 別のものと定義されています.
 多くの違いが列挙されています.
 ある資料を載せます.

譫妄に関しては,基本的には「意識障害」に分類されます.

「譫妄の特徴」を列挙しておきます.
1.発症様式は,急激で発症は数時間から数日で
  発症日が明確,夜間が多い.
2.日内変動があり,日中温和で,夜間に増悪
3.症状は数時間から数週間で消失.
4.症状は多彩で動揺する.
  精神症状,特に幻視,興奮など多彩に認められ変化する
5.注意は,集中,持続,転換に障害がある.
6.見当識は「時間」に関しての障害が強い.
7.記憶は,即時ならびに近時記憶の障害が強い.
  昔のことは覚えている.
8.思考は断片的,内容は多い.まとまりは無い.
9.知覚に関しては,視覚性の錯覚,幻覚が多い.
10.会話はまとまりがなく散乱する.
   要は話が飛んで,何について話しているのか
   ついていけない.
11.神経活動は過剰あるいは低下
12.病識は欠如している.
13.睡眠覚醒サイクルは,ほぼ障害されている.
14.既往歴,現病歴としては身体疾患の存在がある.
   もちろん中枢性もある.
15.薬物の関与が多い.
16.誘因は身体的にも心理的にも多い.
17,治療の可能性は身体疾患に依存しており,
   原因疾患を改善させれば譫妄も消えることが多い.
 
   要は,短期間で発症して短期間で消失しないと譫妄とは
   呼ばないということです.
   治療を開始すれば,3日で軽快する人が多いです.

認知症は,意識はおおむね正常,
おかしいのは内容であって,
意識レベルというスケールでは正常に入ります.

認知症の特徴を列挙しておきます.
1.発症様式は,いつから起きたのか特定できない.緩徐に起きる
2.日内変動は,ほぼ無い.経過は持続性,数ヶ月から数年以上,徐々に増悪
3.症状は動揺せず,変化が少ない.要は,多彩な症状が次から次へと出ない.
4.精神症状は,記憶障害,失見当識が主で,精神症状がでれば,
  それは,持続性であることが多い.
5.注意障害は目立たない
6.見当識は,時間,場所,人物の順に障害される.
7.記憶は近時および遠隔記憶の障害,昔のことも忘れている.
8.思考は,内容が貧困化する.要は思考自体が停まりかけている.
9.錯覚はなく,多くは異常なし.
10.会話は,語健忘,保続が目立つ.
   要は,同じことを繰り返す.同じように忘れる.
11.神経活動は正常が多い.
12.病識は,初期には正常,徐々に無くなる.
13.睡眠覚醒周期は,断片的な睡眠パターンである.
14.既往歴,現病歴は中枢神経疾患が存在.
15.薬物の関与は少ない.
16.誘因も少ない.
17.治療可能な認知症もあるという程度で,消えるというものではない.

大きな違いは,
発症様式と日内変動,症状の持続期間,
会話のまとまりの悪さと内容の散乱などが
目安と書いてあります.

【質問】家族に譫妄はどうやって説明しますか?

「譫妄」あるいは「一時的な譫妄状態」を
「認知症が出た」と説明すれば,家族は落ち込みます.

 病気そのものの悪化や,術後の環境変化などでの
 「一時的な変化」ですと説明するのが,正確な説明です.

「認知症になった」というのは,家族に精神的な大きな打撃を与えるので,
 その時を契機に「認知症が増悪した」のは,
 もっとずっと後,一ヶ月以上先に説明すべき内容です.

【質問】譫妄になりそうな人,はどんな人ですか?

これは,予測がつきます.
というか譫妄の危険因子,素因を持つ人という意味です.
素因としては,加齢, 高齢者は危険,
慢性の脳疾患(アルツハイマー病,パーキンソン病など).

加齢は,論文を見ると60才以上と書いたものがありました.
今は,60歳台の患者さんが入院してくると,
「えらく若い人が入ってきた」というものですが.

【質問】促進因子にはどんなものがありますか?

一般的には,社会的な心理的なストレス,睡眠不足.
病棟,病院で有名なものとして,
「ICU症候群」のような,朝昼夕のない感覚遮断,隔離状態.
さらに一般的には,ドレーン,点滴を抜かれないようにするための,
身体拘束,長期臥床などです.

最近経験したのは,90才台の高齢者,
慢性硬膜下血腫のドレーンを留置して,
あまり血腫液が排液されず,もう一日留置,合計2日留置,
右手をチューブを抜かれないように拘束.
1日目はなんとも無かったのが,二日目から右肘関節の痛み.
激しい不穏.そこで鎮静剤投与.
夕方から落ち着いたかと思うと,
夜中に一晩中起きて,明け方まで寝ない.
その後は,終日傾眠で持病の腎不全,糖尿病,喘息の増悪と
転がり落ちるように,全身状態が増悪.
点滴のみで絶食.
いつになったら,どうなったら
歩いてきた慢性硬膜下血腫の患者を歩いて
退院させることができるか苦慮中.

これも1日のみの身体拘束なら,
普通に5日ぐらいで退院できたケースであろうと思われます.
残念な症例.
高齢者こそ,すぐに自宅へ帰す治療が必要です.

【質問】譫妄は,譫妄のもとになる疾患,
状態になって何日目ぐらいに出てきますか?

一番多いのは,2日目から5日目あたりです.

脳卒中での入院でも,発症当日はそれなりに落ち着いていたのが,
突然,幻覚,妄想がでてくるのは2,3日目以降です.
たいていが1週間から10日間ぐらいで消失します.

家族は
「発症時が一番悪く,病院にはいって治療しているから良くなるはず」
と思っています.
それが普通の考え方です.

譫妄は,環境の変化などからも,
少し遅れて症状が出てくるので,
「病院に入って,こんなになって」と
怒ってくる家族もいますが,
譫妄の知識があれば説明もできます.

【質問】幻覚の内容は,どんなものがありますか?

やはり,ものが見えるのが大半です.
要は「幻視」です.
幻聴の訴えを聞いたことは,ほとんど記憶にありません.

幻視は,患者に害を及ぼすこともあります.

今までで,一番悲劇的であった症例:

昔に幻覚が見えて治療歴のあるおじいさんが
脳出血で入院してきました.
不穏,譫妄時には生食100 mlとセレネース1Aを
指示していました.
妻も,譫妄が昔あったので注意してくださいと話をして夕方帰宅.
夜にむけて「兄がガラスの向こうにいる」と言い出して,
ナースがセレネースを準備している間に,
「向こうにいかないと」ということで,
椅子で病室のガラスを割って向こうへ.
そこは6階の病室で,本人は下の道へ転落して即死.
文字通り致命的でした.

他には,SAHの脳血管攣縮の時期,
発症から7-10日目に低ナトリウム血症などを
合併して起きることが多いです.
スナックのママさんは,
「ICUが一瞬居酒屋にみえて,
どうして皆,挨拶をしないのだろうか?」と思っていた.
一晩で元のICUに戻りました.
また,軍事研究が趣味のおじさんは
脳血管攣縮の時期に日本軍の戦車がせめてきたとのこと.

幻覚,特に幻視が見えるにしても,
全くの空想で,知識も全くないことは見えようがありません.
元ネタになるものはあるはずです.

他に多いのは,
親戚の誰々さんがベッドサイド来てくれた.
あるいは,すでに無くなっている親族がそばに立っている
など具体的な人間が出てくることが多いです.

あるいは追跡されている,
ベッドの下に爆弾が仕掛けられている.
盗聴されているなど.
被害妄想的な内容も多いです.

これは治療をすると,早くて1日遅くても3日で消えます.
薬を飲み始めて3日経過して,「彼らの追跡が消えた」と答えた
患者さんもいました.

印象としては治療開始したら3日ぐらいで
改善,消失するのが,譫妄からの幻覚の特徴です.
幻覚が出れば,譫妄は患者に有害事象を及ぼすことがあるので,
とにかく治療を急ぐことです.

【質問】「混乱」,「不穏」との大きな違いは?

  「不穏状態」という言葉を聞きます.
また「混乱」して病院に受診などとも聞きます.

一番大きな違いは「譫妄」には,幻覚があることです.

「統合失調症」の人が,
長年見えたり聞こえたりする宇宙からの声などは,
今に始まったものでは無いので,どうこう言う必要は無いです.

譫妄は,基礎疾患,急激な環境変化に伴って,
急激な発症というのが特徴です.

急に言葉が出ない.
失見当識になれば,パニックになり「混乱」して受診となりますが,
新しい幻覚が出たりはしません.精神症状,
とくに幻視と興奮が起きて,その内容も移り変わると
譫妄の定義に当てはまってきます.

【質問】譫妄は,いつまで続くのですか?

必ず一過性です.
定義では長めに数週間と書いてありますが,
数週間続いた人は見たことがありません.
長くても1週間です.

夜中に一晩中,目つきが変わってわめく人をみると,
「永遠に続く地獄絵図」のような印象を受けますが,
必ずとまります.長くても数日です.

それは,脳が中程度の意識障害の時に,

中途半端に過剰な興奮をしているからです.
人間の脳は,いつまでも過剰な興奮はしません,

【質問】なんで,あんなに「怒る」あるいは
            怒ったように見えるのですか?

  情緒面の急激な変化が特徴です.
      本人は,急激に悲しくなって泣いているときもあります.
      押し黙って,苦悩に耐えている時もありますが,
     その時は,「手がかからない」ので,印象にのこりません.
      喜怒哀楽の中で「怒る」時は陽性症状なので,
     記載も容易で見た目もわかりやすいので,
   「怒っているとき」が多い訳です.

     怒りの引き出しを一つあけると,
     過去の我慢してきた独立した怒りがすべて出てきます.

     それを現状に当てはめて説明すると,
     まわりからは「この人,いったい何に腹を立てているの?」となります.

【質問】普段は温厚な人なのにと家人が嘆きますが,
            普段温厚なら,  譫妄状態になりませんか?

           これは,一般人がショックをうけて
          「こんな人ではなかった」と訴えてくるものです.

          基礎疾患,大手術自体の影響,
          術後の環境変化,睡眠不足などが重なれば,
          普段温厚な人でも,譫妄は起きることはあります.

       「一時的な変化」,「それだけ身体や頭に負担になっている.」
        と説明すると,「本人も大変なのね」と理解してくれます.

【質問】どうして,譫妄は夜間に多いのですか?

       睡眠覚醒サイクルが狂うからです.
       人間は昼行動物で,光の量で概日リズムが回っています.
      それが高齢化とともに中脳,視床下部,のリズムセンター
      の調子が狂うからです.
      たとえれば,長年使ってきた時計が大分,
      遅れるようになったなどがわかりやすいと思います.

     丑三つ時に光を強く,患者の目に当てているICUの環境は,
     睡眠中の脳の機能低下時に無理矢理起こすことになるので,
    発言内容がおかしくなるのは,当然の帰結です.

    昼夜逆転は,認知症,高齢者にとっては普通に起きますが,
    日常生活は,苦痛にはなっていないとデータがあります.

   仕事をしていて,昼夜逆転は,苦痛になります.

【質問】譫妄患者の鎮静方法は注射ではどうやりますか?

      ほんとに,今は良い薬がたくさんでました.
      最近は,「筋肉注射はしない」方向になっています.

   一般病棟では,セレネース1Aを点滴というのが,
    ほぼ日本中の病院でされています.
     効かないときは,もう1Aとされています.

     生食100 mlに2A入れて全開で落として,落ち着いてきたら
     ゆっくり持続.朝まで寝てくれるかどうかが大事です.
     それでも無理なら一般病棟では,大量に薬を点滴するのは
  やめた方が安全です.
  

  要は,持続鎮静が必要な段階になってしまっている時は
  どうするかです.

ICUで持続鎮静する場合,
プロポフォール,デュプリバンでの持続鎮静をします.

最初に5から10ml静注して,
次に時間5-15mlずつ持続で行けば,
とりあえずの緊急避難は可能です.
これは,ICUで行わないと危険です.
呼吸状態の問題があります.

以前,話す内容があわない.
歩くのがふらふらするという方が来られ,
実は脳炎でしたが,
腰椎穿刺の時にプロポフォールを10 ml静注してその間に行って,
終了してすぐに,患者さんが目を覚ましたことがあって,
プロポフォールのすばらしさを実感しました.
ドルミカム,セルシンでは
このようなコントロールはなかなか困難です.

【質問】譫妄患者の内服での治療法は?

以前はセレネースの内服でした.
知っておかないといけない必須事項があります.

セレネースは過剰にでるドーパミンを
押さえて興奮を押さえる薬です.
その時にアセチルコリン系も押さえます.

セレネースだけ朝昼晩,連続で投与すると
間違いなくカタレプシーという状態になります.
一定の姿勢にすると,ずっとその姿勢のまま動かなくなります.

それで,アセチルコリン系を発動させるため
アキネトンという薬を必ず併用しないといけません.

以前は,それらが「さじ加減」「知識の差」で譫妄を専門にしてきた
医師達の技術でした.

他にはレボトミン,ドグマチールなどを用いていたと
思いますが,今の今,それらを使う機会は減っています.

今はセロクエル,リスパダールがでて,本当に楽になりました.

セロクエル(クエチアピン)は2001年2月から発売された
第二世代抗精神病薬です.
譫妄に効くからと25 mgの錠剤を朝昼晩と処方したりすると,
患者さんは間違いなく,一日中傾眠になります.

幻覚は,一日で消えることが多いです.
長くても2,3日で効果がでます.

糖尿病の人には良くないという記載があります.
一般的には,一日25 mgを2回投与から初めて,
効けば一回に減量などです.
夕食後,眠前の2回がわかりやすいです.
夜間譫妄にむけての対処法です.
しかし,
朝夕と内服して,
眠剤としては使わない方が良いとの意見もあります.

以前,20歳台の広範囲の脳挫傷の患者さんが,
激しい譫妄状態であったので,眠らせて精神科病院に
転送したことがありました.
一ヶ月ぐらいして,ケロリと良くなって普通に
外来受診してきて驚きました.
それはセロクエル(100 mg錠)を5錠内服していたからです.

それで,一見,普通に戻っていて驚きました.
会話も普通,易怒性も消失,理解力も普通でした.
しかし,薬をやめられるかどうかは不安でした.

高次機能障害の専門病院にリハビリに行ってもらいました.
専門で無い限り,
そこまでの量を使いこなすことは不可能と思われます.

もう一つは,リスパダール(リスペリドン)です.
これは,1996年4月に承認されています.

外来患者さんで,
「幻覚が見えるようになって,
専門の先生のところに行き,薬をもらったら消えた」と
いう人がいました.
何を出してもらったのかとみると
リスパダールでした.

さらに,救命救急センターに
救急で運ばれた多くの患者が,幻覚が見えたとき,
相談していた精神科の医師は,
かならずリスパダールを処方していました.
また液体があるのが,非常に有用です.
睡眠障害,強迫性障害などにも使われますが,
少量から始めます.

一般的な状態に対しては強力な鎮静作用があります.
しかし精神科疾患,特に統合失調症,躁うつ病の躁状態の興奮を
これだけで抑えるほどでは無いので,
ワイパックスなどの抗不安剤,
デパケンなどの気分安定剤を併用とか書いてあります.

精神科病院からの紹介患者さんで,
デパケン(バルプロ酸)を内服している方は,
結構多いです.
これは,脳の安定作用で,
穏やかにするのを目的としたものと精神科医師に
説明されたことがあります.

脳外科病棟では,
セロクエルとデパケンと言う組み合わせも有りです.

譫妄に限れば,
セロクエルとリスパダールの使い方に慣れれば,
一般病棟で起きる譫妄には対処出来ると思われます.

今回は,病棟の夜の風物詩の
譫妄に対して,定義,症状,対処法,患者家族への対応法
などを説明しました.

知っていたら良いもの

「譫妄と認知症は同じものではない」

「一度,譫妄が出ても,元に戻る」

「譫妄がでたら,薬で調節する.」

「譫妄は,老人ほど出やすい」

「譫妄が出たからと言って,その人は普段から粗暴とは限らない」

「譫妄は,急性期脳障害の症候群であり,
 原因をさぐりながら症状を押さえていくことが大事.」

「譫妄には,睡眠薬は効果は,ほとんど無い」

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