劣化があるときから,急激に進む医師を見分けるには,
まず,劣化しきった医師を見るのが,一番.
それは,アルツハイマーの進行状態をみて,
初期の軽度認知障害(mild cognitive impairment)の時期をみて,
はじめて,全体像がわかるのと同じ.
MCIの特徴は,
1.物忘れを自覚している。周りの情報でもいい
2.客観的に記憶障害がある(新しいことを覚えられない、維持できない、思い出せないこと)
3.認知機能は保たれている
4.日常生活は基本的にできる
5.認知症ではない
とのこと.
認知症の変化と,劣化する医師の変化は根本的には同じであろう.
医師としてのルーチンの決まり切った仕事はできる.
認知機能は保たれている.
劣化していく特徴としての毎日の行動
1)朝,8時からの会議,カンファレンスなどで必須で出なくてもよいものには,
だんだん遅刻してくる.
あるいは,遅刻しても周りが何も言わないので,徐々に出てこなくなる.
遅刻が常態化しても,周りが何も言わなくなっていれば,すでに,
まわりは,その医師を必要としていないことを意味するので,
評価は,グレイよりはブラックに近い.
2)悪人ではないが,無意識に他の人に用事を押しつけるようになる.
権利を主張する.有給休暇を今月はとっていないとか,
頭を使うことが,医学,医療ではなく,自分を休めるほうに力点が
移行している.
3)余分な仕事が入ると,不機嫌になる.あるいは露骨に怒る.
ほかの医師が助けに入るまで,延々と苦情を言い続ける時もある.
このような状態になれば,「自分の能力は低下している,余力はもう無い.
だれか,助けてください」と本当は言っていることになる.
ある本に「怒りっぽい人は認知症になりやすい」というのがあったが,
違っている.
「能力以上のことを強制されたら,だれでも反発する」
それが,ふつうならできるだろうと周りの人が思っていることが,
本人にとっては,苦痛なので,怒るということになる.
カラオケに行って,音痴の人に強制して歌わそうと思えば,
中には怒る人もいるでしょう.当たり前の話.
それが,医師として当たり前の仕事が,余分にひとつでも増えて
その医師が怒れば,状態がわかる.
もちろん,有能な医師には大量な仕事が依頼されるが,
他の医師ができない部分を,カバーさせることは無意識に行われる.
それで,その医師が,堪忍袋の緒が切れてブチ切れるというのとは別の話.
4)話の大半が,一般論の昔話,最近の世の中のニュースなど医学的な会話の内容が少なくなっている.
そこらのおっさんと同じような印象を,病院内で白衣を着ている人から受けるのは,
違和感がある.
そのような医師は,自分でも無意識に,現状と合致してないことに感ずいていて,
病院の中でも,白衣を着ていないときも長い.
白衣を脱いでいる時は,一般人としての会話をしても良いと思っているかどうか不明だが,
白衣は着なくなっている医師は,無意識のメッセージを発していると思う.
5)誰かの欠点を,影でよく話しだす.
初期兆候として,これが,一番のメッセージである.
そして,劣化した者同士で嫌味の言い合いをしたりしている.
自分が落ちて行っている時には,自分より劣化している医師を責めたり,
さげすむことで,自分が少しでも上にとどまっていることを実感したいからであろう.
向上心に燃えて,実力をつけようとしている時期には,もう,やる気も体力も無くなった
高齢の医師の悪口を言うヒマはない.
自分を高く上げることが大事なメインの関心事で,落ちて行く人は自分には無関係なので,
視野に入らない.
したがって,誰かができないなどの陰口,悪口は言わない.
誰かのできない部分を話すのが,会話の中心になっている医師の最大の関心事は,
「自分は,そうではない」ことの,証明である.
6)平気で周りの人を,ある時間待たせる.
これは,劣化というよりは,劣等感の裏返しに近い.
「自分がいないと,皆困る」という事実がほしい.
周りは,「あなたが大事」とは解釈せず,
「だんだん,責任感も薄れてきた」と納得する.
他にもあるかもしれないが,
今までに,劣化しつつあった,そして完全に劣化した医師をみていて,
共通の特徴があったので,まとめてみた.
自分もいずれ,外科系の医師としては,一線を引く時がくるが,
このような,晩節になりたくはない.